大阪府池田市井口堂、能勢街道沿いの住宅地において、敷地奥の畑の脇に残されていた二棟の小さな木造小屋を、シェアキッチン「Ichizu」へと改修した計画です。
敷地は、施主家族が先祖代々受け継いできた土地です。小屋は街道から直接見える場所にはなく、主屋と納屋の間を抜けた先に広がる畑の脇に、長く空き家のまま残されていました。かつて施主の祖父が、住まいに困っていた人へ一時的な住まいとして提供していた建物です。最初に現地を訪れた際には、木や草をかき分けながら状態を確認するほど、周囲の植生に覆われていました。
施主は、当事務所が設計した能勢の「里づと」を訪れ、古い建物や既存の風景が持つ雰囲気を残しながら、新しい使い方へとつなげることを望まれていました。計画では、小屋を新しい建物のようにつくり変えるのではなく、この場所に積み重なってきた時間を受け継ぎながら、シェアキッチンとして必要な機能を加えることを考えました。
その姿勢を象徴しているのが、外壁の錆びた波板鋼板です。劣化した材料として取り除くのではなく、建物が過ごしてきた時間を映す素材として残しました。一方で、建具、内装、キッチンまわりは、新たな利用に必要な性能と清潔感を備えるよう更新しています。
錆びた波板鋼板の荒さや時間の痕跡に対し、木製建具、ラワン合板、ステンレス、黒皮鋼には、簡潔で端正な表情を与えました。新旧を曖昧に混ぜるのではなく、その違いを対比させることで、既存外壁が持つ風合いを空間の新たな魅力として捉え直しています。過去の状態へ復元するのでも、そのまま保存するのでもなく、残されてきた時間と、これから始まる営みが並存する場所として再構成しました。
Ichizuへは、街道側の主屋と納屋の間を抜け、敷地奥の畑へと進みます。街道から建物の全貌を見せるのではなく、敷地の奥行きに沿って徐々に現れる既存の配置を、そのまま新しい施設へのアプローチとして活かしました。
同じ敷地では、畑をシェア農園「Wells Garden」として再生し、街道側の納屋では、必要な箇所のみを修繕して、骨董や古着を扱う「ツルノネゴト」を始めています。主屋、納屋、畑、小屋という受け継がれてきた敷地の構成を残しながら、それぞれに段階的に新しい役割を与える取り組みです。
将来的には、主屋側に厨房機能を備えた別棟を新築し、農園で育てた作物を調理して主屋で食べられる場を整える構想があります。主屋、納屋、畑、Ichizu、将来の厨房施設を一体的に活用し、食を介して地域の人が集まる場所へと、時間をかけて育てていくことを目指しています。
「Ichizu」という名称には、先祖から受け継いだ土地と建物を一途に守り、次の世代へとつないでいく施主の思いが込められています。二棟の小さな小屋の改修を起点として、長く眠っていた敷地の奥を、もう一度人の営みへとつなぐ計画です。
「Ichizu」「Wells Garden」「ツルノネゴト」のロゴデザインも、建築とあわせて当事務所が担当しました。
主要用途 シェアキッチン
関連施設 シェア農園「Wells Garden」 骨董・古着 「ツルノネゴト」
規模・構造 在来木造平屋建て(改修)
用途地域:第1種中高層住居専用地域
防火指定:法22条地域
前面道路幅員 4.0m
敷地面積 116.48m2 ( 35.24 坪 )
建築面積 40.58m2 ( 12.28 坪 )
延床面積 40.58m2 ( 12.28 坪 )
小屋1床面積 27.33m2 ( 8.27 坪 )
小屋2床面積 13.25m2 ( 4.01 坪 )
□主要外装仕上げ
屋根 カラーガルバリウム鋼板タテハゼ葺き
軒天 構造用合板現し、杉板貼り
外壁 既存 波板鋼板 再利用(一部新規カラーガルバリウム鋼板)
建具 木製制作
外構 コンクリート平板、植栽は既存残しor植替え(施主施工)
□主要内装仕上げ
内壁 AEP塗装、ラワン合板貼り、キッチンパネル貼り
床 モルタル金鏝押えの上防塵塗料
天井 AEP塗装
キッチン 制作 天板 SUSPL、フレームSt黒皮
建具 ラワンフラッシュ、栂框
衛生機器 トイレ(TOTO)、手洗(LIXIL)
照明器具 KOIZUMI、上手工作所、FSLiving
□協力業者
大工 高嶋 誠悟、下川 宏樹
板金 槌田板金
左官 和建
建具 株式会社 人見建具
鉄工 橋本鉄工所
塗装 TOTAL PAINTING YUKI
木材 吉野丸タ林業販売株式会社
基礎 和建
電気設備 株式会社パンダテック
衛生設備 Any old
解体 高嶋 誠悟、下川 宏樹


■改修前の既存の小屋




